奄美の風
奄美完熟たんかんの作業に追われていた、ある日。
敬愛する、奄美出身の経済学者・叶芳和先生の本を貸して欲しいと来客があった。私の作業場には、ドラッカーの処女作「経済人の終わり」と叶先生が奄美農業を語った「農業ルネッサンス」を大切に飾ってある。
この2冊は私の宝物。
農業ルネッサンスには、叶先生からサインも頂いている。そう簡単に、人に貸せるものではない。
詳しく話を聞くと、叶先生が奄美市長選に出馬されるかもしれないという。奄美市は奄美大島の笠利町・名瀬市・住用村の3市町村が3月20日に合併してできる、新市だ。
降って沸いたような話に、私は当惑した。国政でさえ固辞された叶先生が、市長選に出馬される訳がない。しかし、奄美を想う先生であれば、決して考えられない話ではない。
その夜。
意を決して、叶先生にメールを書いた。夢と希望と不安と心配が交錯した私の心情に、先生から丁寧なお返事を頂いた。
その後、お電話を頂いた。
「住民の間で、奄美を興す風は吹いていますか?」
私は即答できなかった。叶先生も揺れていた。
強気の見通しで知られる叶先生は、研究者としては「反骨の士」だ。直言を恐れない。こと、農業政策・アジア貿易に関しては当代一流の人物といっても過言ではない。
信義を重んじ、農家さんとは損得抜きで付き合い、調査し、交流を深め、時には農家の声をダイレクトに行政にぶつけ、世に問う。このスタイルは、農業関係者にとっては、たいへん心強いものだろう。
ダメ詰め農業論ではない。
いかにして農業が産業として成立し、地域を活性させられるかを提示する叶先生に、夢を見る方・共感を覚える方も少なくない。
3月15日。
叶先生が奄美にいらっしゃった。支援者を含め、叶先生と親しい方々が集まり、ざっくばらんに話し合った。私は「先生が奄美市長になられたら、リアルタイムで奄美ルネッサンスを目の当たりにできる」と語った。
同時に「一部の方の間には、叶先生待望論があるけれども、一般市民の間では、叶先生の知名度は決して高くはない」ともお伝えした。
もし、叶先生が奄美市長選に出馬されたら「私は中岡慎太郎になります」と、はっきりとお答えした。
「衰退していく奄美をみているだけでは、裏切りである」とおっしゃった叶先生。その言葉に反応したのは、まだ私が若いからなのか。それとも叶先生を知っているからなのか。
もういちど、自問したい。
「奄美で風は吹いていますか?」

